目次

文書の概要

「Cykelfokus 2024」は、コペンハーゲン市の自転車・道路プロジェクトに関する最新の指針です。この文書は、世界最高の自転車都市を目指すコペンハーゲンにおいて、自転車インフラの設計と整備に関する標準を定めています。2013年に初めて策定されたこの指針は、2年ごとに更新されており、今回の2024年版では、以下のような変更点が加えられています。

オリジナルドキュメントはこちら。
https://kk.sites.itera.dk/apps/kk_pub2/index.asp?mode=detalje&id=2673#main-content

  1. 人口増加に伴う自転車利用者の増加
  2. 貨物自転車や電動自転車の普及
  3. 2012年以降に開通した12本のスーパーサイクルハイウェイの影響

これらの変化を踏まえ、自転車利用者の快適性、流れ、安全性、セキュリティに焦点を当てた、より詳細で包括的な内容となっています

主要ポイント

  1. 自転車道の幅員基準の見直し:
    自転車利用者の増加と多様化に対応するため、自転車道の最小幅員が見直されました。特に、ラッシュ時の自転車交通量に応じた幅員基準が設定されています。
  2. 交差点設計の改善:
    交差点は自転車事故が最も多く発生する場所であるため、自転車利用者の安全性と快適性を重視した設計指針が示されています。特に、右折車両と直進自転車の衝突リスクを軽減するための対策が詳細に記述されています。
  3. 自転車優先道路(サイクルストリート)の導入:
    自動車交通量が少なく、自転車交通量が多い道路において、自転車が優先される「サイクルストリート」の設計指針が新たに追加されました。これにより、自転車利用者の快適性と安全性の向上が期待されています。

これらの主要ポイントは、コペンハーゲン市が目指す「世界最高の自転車都市」の実現に向けた重要な施策となっています。「Cykelfokus 2024」は、交通計画者やコンサルタントだけでなく、都市計画者、景観設計者、建築家、開発業者など、幅広い関係者にとって有用なガイドラインとなることが期待されています。

自転車道と区間

自転車道の種類

コペンハーゲン市では、以下のような自転車道の種類が定められています:

  1. 通常の自転車道: 車道と歩道の間に設置された一方通行の自転車専用レーン。
  2. サイクルストリート(Cykelgade): 自転車が優先される道路で、自動車は制限速度30km/h以下で走行。
  3. 双方向自転車道: 主に独立した経路や橋、トンネルなどに設置される双方向通行可能な自転車道。
  4. 共有道路: 交通量の少ない道路で、自転車と自動車が混在して走行。
  5. 自転車レーン: 車道上に白線で区切られた自転車専用レーン。

これらの自転車道は、交通量や道路の状況に応じて適切に選択されています。特に通常の自転車道は、主要な自転車ルートや交通量の多い道路(1日あたり2,500台以上)、または速度制限が40km/hを超える道路に設置することが推奨されています

自転車道の幅員

コペンハーゲン市では、自転車道の幅員に関して以下のような基準が設けられています:

  1. 一方通行自転車道:
    • 最小幅員: 2.5m
    • ピーク時の自転車交通量に応じて:
      • 500-750台/時: 2.8m
      • 750-1,500台/時: 3.0m
      • 1,500-2,000台/時: 3.5m
      • 2,000-3,000台/時: 4.0m
      • 3,000台/時以上: 4.0m以上
  2. 双方向自転車道:
    • 最小幅員: 4.0m
    • ピーク時の自転車交通量に応じて:
      • 1,500-3,000台/時: 4.5m
      • 3,000-4,000台/時: 5.0m
      • 4,000台/時以上: 6.0m

これらの幅員基準は、増加する自転車利用者数や貨物自転車、電動自転車の普及を考慮して設定されています。また、駐車車両や固定物との間に0.3-0.5mの安全地帯を設けることも推奨されています

自転車とその他の交通インフラの関連性

歩行者との共存

コペンハーゲン市では、自転車インフラの計画・設計において歩行者の安全性と快適性を重視しています:

  1. 分離原則: 基本的に自転車道と歩道は分離し、それぞれの利用者が明確に区別できるようにします。
  2. 歩道幅員の維持: 自転車道の設置により歩道幅員が狭くならないよう配慮します。
  3. 交差点での配慮: 交差点では、歩行者と自転車の動線を考慮し、安全な横断空間を確保します。
  4. シェアードスペース: 特定の条件下(歩行者が多数、低速度)でのみ、歩行者と自転車の共有空間を設けます。
  5. 視覚的・物理的分離: 必要に応じて、レベル差や舗装材の変更、マーキングなどで自転車道と歩道を明確に区分します

公共交通機関との連携

コペンハーゲン市では、自転車と公共交通機関の連携を重視し、以下のような取り組みを行っています:

  1. バス停での配慮:
    • バスベイの設置: 可能な場合、バス停にバスベイを設け、自転車の流れを妨げないようにします。
    • バス乗降客との分離: バス停では、乗降客と自転車利用者の動線を明確に分離します。
  2. 駅周辺の自転車インフラ:
    • 十分な駐輪スペース: 駅周辺に十分な駐輪スペースを確保し、公共交通機関との乗り継ぎを容易にします。
    • アクセス性の向上: 駅へのアクセス路に良質な自転車道を整備します。
  3. 自転車の車内持ち込み:
    • 電車やメトロでの自転車持ち込みを許可し、長距離移動での自転車利用を促進します。
  4. スーパーサイクルハイウェイ:
    • 郊外から都心部への長距離通勤ルートとして、高品質な自転車道ネットワークを整備し、公共交通機関との連携を強化しています

これらの取り組みにより、コペンハーゲン市は自転車と公共交通機関を効果的に組み合わせた持続可能な交通システムの構築を目指しています。

自転車に優しい交差点

交差点の設計

コペンハーゲン市では、自転車利用者の安全性と快適性を重視した交差点設計を行っています。主な特徴は以下の通りです:

  1. 前進した自転車停止線:
    自転車の停止線を自動車より5m前方に設置し、自転車の視認性を高めています。これにより、右折車両との衝突リスクを軽減しています。
  2. 自転車用待機エリア:
    左折自転車のための待機エリアを設置し、二段階左折を安全に行えるようにしています。
  3. 自転車レーン:
    交差点内に青色の自転車レーンを設置し、自転車の通行空間を明確化しています。
  4. 右折車両対策:
    右折車両と直進自転車の衝突を防ぐため、右折車線を設置したり、右折禁止にするなどの対策を講じています。
  5. 視認性の確保:
    交差点手前30-50mの範囲で駐車を禁止し、自転車と自動車の相互視認性を確保しています。

これらの設計により、自転車利用者の安全性と快適性を高めつつ、交通の円滑な流れを確保しています。

信号制御

コペンハーゲン市の交差点における自転車に配慮した信号制御には、以下のような特徴があります:

  1. 自転車用信号機:
    自転車専用の信号機を設置し、自転車の動きに合わせた制御を行っています。
  2. 先行青信号:
    自転車に2-4秒の先行青信号を与え、交差点への進入を優先させています。これにより、右折車両との衝突リスクを軽減しています。
  3. グリーンウェーブ:
    主要な自転車ルートでは、時速15-25kmで走行すると連続して青信号に出会えるよう信号を調整しています。これにより、自転車の走行の快適性と効率を向上させています。
  4. 検知システム:
    熱感知カメラなどを用いて自転車を検知し、必要に応じて青信号時間を延長するなど、柔軟な信号制御を行っています。
  5. 右折許可:
    安全が確保できる交差点では、自転車の赤信号時右折を許可し、待ち時間を短縮しています。

これらの信号制御により、自転車利用者の安全性を確保しつつ、スムーズな走行を支援しています。

都市設備と自転車利用者向け装置

照明と標識

コペンハーゲン市では、自転車利用者の安全と利便性を考慮した照明と標識の設置を行っています:

  1. 照明:
    • 自転車道には十分な明るさの照明を設置し、夜間の安全な走行を確保しています。
    • 交差点や横断歩道付近では、特に明るい照明を設置し、自転車と歩行者の視認性を高めています。
    • 自転車・歩行者専用橋では、デザイン性の高い照明を採用し、夜間の景観も考慮しています。
  2. 標識:
    • 自転車ルートの案内標識は、目的地までの距離と所要時間を表示し、利用者の利便性を高めています。
    • 標識は可能な限り路面標示を用い、「標識の森」を避けて景観に配慮しています。
    • 重要な標識は、自転車利用者の視線の高さに合わせて設置しています。
    • スーパーサイクルハイウェイでは、専用のロゴと色を用いた標識を採用し、ルートの識別を容易にしています。

これらの照明と標識により、自転車利用者の安全性と利便性を向上させるとともに、都市景観との調和も図っています。

駐輪施設

コペンハーゲン市では、利便性の高い駐輪施設の整備に力を入れています:

  1. 駅周辺:
    • 主要な駅には大規模な駐輪場を設置し、公共交通機関との連携を強化しています。
    • 一部の駅では、監視カメラ付きの屋内駐輪場を設置し、セキュリティを強化しています。
  2. 街中:
    • 目的地の近くに小規模な駐輪スペースを多数設置し、利便性を高めています。
    • 歩道上の駐輪ラックは、歩行者の通行を妨げないよう配置しています。
  3. 駐輪ラックのデザイン:
    • 様々な自転車(通常の自転車、カーゴバイク、電動自転車など)に対応したデザインを採用しています。
    • 都市景観と調和するデザインを選択しています。
  4. フレキシブル駐輪:
    • 一部の地域では、時間帯によって自動車駐車スペースを自転車駐輪スペースに転用する「フレキシブル駐輪」を導入しています。
  5. 駐輪場の情報提供:
    • デジタルサイネージやスマートフォンアプリを通じて、近くの駐輪場の位置や空き状況を提供しています。

これらの取り組みにより、自転車利用者の利便性を高め、無秩序な駐輪を防止し、都市の美観を維持しています。

プロジェクトの評価方法

評価基準

コペンハーゲン市では、自転車・道路プロジェクトの評価に以下の基準を用いています:

  1. 自転車交通量の変化:
    • プロジェクト実施前後の自転車利用者数を比較
    • ピーク時の自転車交通量に特に注目
  2. 安全性の向上:
    • 事故件数や重傷者数の減少
    • 危険箇所の改善状況
  3. 快適性と利便性:
    • 自転車利用者の満足度調査
    • 走行時間の短縮や停止回数の減少
  4. 他の交通手段からの転換:
    • 自動車や公共交通機関から自転車への転換率
  5. 経済性:
    • 費用対効果分析
    • 健康増進や環境改善などの社会的便益も考慮

これらの基準を総合的に評価することで、プロジェクトの効果を多角的に分析しています。

モニタリング手法

コペンハーゲン市では、以下のような手法を用いてプロジェクトのモニタリングを行っています:

  1. 交通量調査:
    • 自動カウンターによる連続的な交通量測定
    • 最低1週間、理想的には4〜8週間の測定期間を設定
  2. ビデオ解析:
    • 交差点や特定区間での交通流動を詳細に分析
    • AIを活用した行動パターンの分析も導入
  3. GPS データ分析:
    • スマートフォンアプリなどを通じて収集した走行データの分析
    • 経路選択や走行速度の変化を把握
  4. 利用者アンケート:
    • オンラインや現地でのアンケート調査
    • 利用者の満足度や改善要望を収集
  5. 事故データ分析:
    • 警察や病院と連携した事故データの収集と分析
    • 事故の種類や原因の詳細な調査
  6. シミュレーション:
    • COMPASS、VISSIM、CYKAPなどのソフトウェアを使用
    • 交通流の変化や将来予測を分析

これらの手法を組み合わせることで、プロジェクトの効果を定量的・定性的に評価し、継続的な改善につなげています。

まとめ

コペンハーゲン市の自転車インフラ指針「Cykelfokus 2024」は、世界最高の自転車都市を目指す同市の取り組みを具体化したものです。この指針の主な特徴は以下の通りです:

  1. 包括的なアプローチ:
    自転車道の設計から交差点の改良、信号制御、都市設備まで、自転車利用に関わるあらゆる側面を網羅しています。
  2. 安全性と快適性の両立:
    自転車利用者の安全を最優先としつつ、快適で効率的な走行環境の創出を目指しています。
  3. データに基づく設計:
    交通量調査や事故データ分析に基づいて、科学的根拠のある設計基準を設定しています。
  4. 他の交通手段との調和:
    歩行者や公共交通機関との共存を重視し、総合的な交通システムの一部として自転車インフラを位置づけています。
  5. 柔軟性と適応性:
    2年ごとの更新を通じて、新しい技術や社会のニーズに迅速に対応できる仕組みを構築しています。
  6. 評価とモニタリングの重視:
    プロジェクトの効果を継続的に評価し、改善につなげるPDCAサイクルを確立しています。

この指針は、単に自転車道を増やすだけでなく、都市全体の交通システムを再構築し、より持続可能で人間中心の都市づくりを目指すものといえます。日本の都市においても、このような包括的かつ先進的なアプローチから学ぶべき点は多いでしょう。自転車利用の促進は、健康増進、環境保護、都市の渋滞緩和など、多くの社会的利益をもたらします。コペンハーゲン市の取り組みは、自転車を単なる移動手段としてではなく、より良い都市生活を実現するための重要なツールとして位置づけている点で特筆すべきです。今後も技術の進歩や社会のニーズの変化に応じて、この指針は進化し続けることでしょう。他の都市がこのモデルを参考にし、それぞれの地域特性に合わせてカスタマイズすることで、世界中でより自転車フレンドリーな都市づくりが進むことが期待されます。