目次
デンマークの自転車向け道路設計(Vejtekniske løsninger for cyklister)について
デンマークは自転車先進国として世界的に知られています。この資料では、自転車利用者の安全性と安心感を向上させるための、12種類の道路設計とその効果について解説します。これらの設計は、29のバリエーションに分類され、2020年から2021年にかけて行われた、デンマーク国内外における20年分の勧告、経験、評価に基づく広範な文献レビューに基づいています。
このブログ記事は、デンマーク語のPDF資料「Vejtekniske løsninger for cyklister」を日本語に翻訳し、要約したものです。
各設計の効果の表示方法
各設計の自転車利用者に対する効果を以下のようにまとめています。事故への影響は、人的被害と物的損害の両方を指します。
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ポジティブな効果: 対策にポジティブな効果があることが十分に裏付けられており、効果の大きさも分かっています。
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ポジティブな効果の可能性: 経験/間接的な調査から、対策にポジティブな効果があることが示唆されています。効果の大きさは不明です。
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効果なし/不確実/状況依存: 1. 対策に効果がないことが証明されています。2. 研究結果がまちまちです。3. 効果は、a) 対策のバリエーション、または b) 比較対象(対策実施前/対策なしの状況)によって異なります。
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ネガティブな効果の可能性: 経験/間接的な調査から、対策にネガティブな効果があることが示唆されています。効果の大きさは不明です。
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ネガティブな効果: 対策にネガティブな効果があることが十分に裏付けられており、効果の大きさも分かっています。
各セクションの内容(要約)
各セクションでは、それぞれの設計について、その概要、自転車利用者の安全性、安心感、円滑性への影響を記述しています。詳細な内容については、元のPDF資料を参照ください。
1. 信号交差点における自転車道の短縮
交差点の手前で自転車道を終了させ、自転車利用者を右折車線に合流させる設計。安全性は向上しますが、安心感は低下する可能性があります。
2. 信号交差点における自転車道の延伸
自転車道を交差点まで延伸させる設計。安全性は、右折車線の有無や他の対策との組み合わせによって変化します。安心感は向上しますが、円滑性は低下する可能性があります。
3. 直進レーンと右折レーンの間の自転車レーン
直進レーンと右折レーンの間に自転車レーンを設置する設計。安全性への影響は明確ではありませんが、安心感と円滑性は向上する可能性があります。
4. オフセット通行のある延伸自転車道
自転車道を交差点の手前でオフセットさせ、歩行者と並んで横断させる設計。安全性と安心感は向上する可能性がありますが、円滑性への影響はまちまちです。
5. 交差点における両方向自転車道
両方向自転車道が交差点を通過する場合の設計。安全性は、信号制御の有無に大きく依存します。安心感と円滑性への影響はまちまちです。
6. 交差点における自転車信号
自転車専用の信号を設置する設計。安全性、安心感、円滑性への影響は、信号のタイプによって異なります。
7. 環状交差点における自転車インフラ
環状交差点における自転車インフラの設計。安全性、安心感、円滑性への影響は、設計によって大きく異なります。
8. バス停における自転車インフラ
バス停周辺の自転車インフラの設計。安全性と安心感は課題であり、円滑性も低下する可能性があります。
9. 自転車道および自転車レーンの脇の路上駐車
自転車道や自転車レーンの脇に路上駐車を設ける場合の設計。安全性と安心感は低下し、円滑性も低下する可能性があります。安全地帯の設置は有効な対策となります。
10. 共用通路と歩行者・自転車共用路
自転車と歩行者が共用する通路の設計。安全性への影響はまちまちで、安心感と円滑性は向上する可能性があります。
11. 2マイナス1車線道路
一見すると1車線のように見えるが、実際には両方向通行可能な道路の設計。安全性は向上する可能性がありますが、安心感と円滑性への影響はまちまちです。
12. 一方通行道路の自転車の逆走許可
一方通行道路で自転車の逆走を許可する設計。安全性と安心感は向上し、円滑性も大幅に向上します。
1.信号交差点における自転車道の短縮:安全性と安心感のトレードオフ
デンマークでは、自転車利用者の安全性を向上させるための様々な道路設計が導入されています。その一つが、「信号交差点における自転車道の短縮」です。この設計は、交差点の手前で自転車道を終了させ、自転車利用者を右折車線に合流させるというものです。一見すると自転車利用者を危険に晒すように思えますが、実際には安全性の向上に寄与するケースが多いことが示されています。
実際の道路では以下のように、わざと自転車道を車道と合流させて、右折自動車と自転車を1列にします。
以下の交差点は自転車の交通量が多い箇所で、合流させていないケース。
多数の自転車が交差点に進入していて、右折の自動車が安全に曲がることが難しい。
設計の概要
「自転車道の短縮」とは、交差点の手前、通常15~25メートル地点で自転車道(または自転車レーン)を終了させ、自転車と原動機付自転車の利用者を右折車線に合流させる設計です。利用者は、交差点でどのような動きをするかに関わらず、右折車線に入り、右折する自動車の流れに合流する必要があります。この車線には、右折矢印と自転車のシンボルで標示がされています。
安全性への効果
この設計の目的は、交差点に進入する前に、自動車と自転車の運転者がお互いを認識できるようにすることで、自転車事故の数を減らすことです。運転者同士を近づけ、同じ高さにすることで、注意喚起を促す狙いがあります。
デンマークで行われた最新の研究によると、信号交差点において、延伸された自転車道から短縮された自転車道への変更によって、自転車の事故件数が約60%減少することが分かっています。また、自転車道が整備されていない交差点に新たに短縮自転車道を設置した場合でも、事故件数が約50%減少することが示されています。これらの効果は、右折車、対向車線の左折車、および交差点進入前の出会い頭事故のすべてを合わせた数値です。
安心感への影響
安全性は向上する一方、自転車利用者の安心感については低下する可能性があります。延伸された自転車道と比較すると、短縮された自転車道では、自転車利用者が自動車の流れに合流する必要があるため、安心感が低下すると報告されています。特に、子供や高齢者など、自転車の運転に不慣れな利用者にとっては、この設計は不安を感じるかもしれません。
円滑性への影響
短縮された自転車道は、延伸された自転車道と比較して、自転車利用者の円滑性を低下させる可能性があります。自転車利用者は、自動車と同じ車線を使用するため、場合によっては自動車を避けたり、自動車の列に阻まれたりする可能性があります。
導入の判断基準
安全性は向上するものの、安心感と円滑性が低下する可能性があるため、導入にあたっては慎重な検討が必要です。特に、以下の条件を満たす交差点では、この設計が有効と考えられます。
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原動機付自転車、電動アシスト自転車、または自転車通勤者の通行量が多い。
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下り坂になっている。
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利用可能なスペースが限られている。
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自転車利用者専用の信号を設置する必要がない。
まとめ
信号交差点における自転車道の短縮は、自転車事故の削減に効果的な対策ですが、安心感の低下というトレードオフも存在します。導入にあたっては、それぞれの交差点の特性を考慮し、安全性、安心感、円滑性のバランスを最適化する必要があります。また、利用者への周知徹底も重要です。この設計が効果的に機能するためには、自転車利用者と自動車運転者の双方が、この設計の目的とルールを理解している必要があります。
2.信号交差点における自転車道の延伸
「信号交差点における自転車道の延伸」は、自転車道を交差点まで延伸させることで、自転車利用者の視認性を高め、自動車との衝突リスクを軽減することを目的としています。
1.の自転車道を短縮して自動車と混合するとは反対に、交差点ギリギリまで自転車道を継続する構造です。
実際の交差点
設計の概要
自転車道の延伸とは、交差点の手前までではなく、交差点の停止線まで自転車道(または自転車レーン)を延伸させる設計です。多くの場合、自動車の停止線を5メートル手前に引くことで、自転車利用者の存在を自動車ドライバーに認識させやすくし、安全性を高めています。
この設計には、主に2つのバリエーションがあります。
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自動車専用右折車線の脇に延伸された自転車道: 右折する自動車と自転車がそれぞれ専用のレーンを使用するため、衝突リスクを最小限に抑えることができます。
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直進・右折兼用車線の脇に延伸された自転車道: 自動車と自転車が同じ車線を使用するため、右折時に注意が必要です。
安全性への効果
自転車道の延伸は、交差点の形状や他の対策との組み合わせによって、安全性への影響が異なります。
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自動車専用右折車線の脇に延伸された自転車道は、直進・右折兼用車線の脇に延伸された自転車道よりも安全です。兼用車線から専用車線に変更することで、自転車の事故件数を約50%削減できるという研究結果があります。
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自転車道が整備されていない交差点に、自動車専用右折車線の脇に延伸された自転車道を新たに設置した場合、安全性に大きな変化は見られないという研究結果もあります。
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自転車道が整備されていない交差点に、直進・右折兼用車線の脇に延伸された自転車道を新たに設置した場合、自転車と事故件数が約130%増加するという研究結果もあります。これは、自転車利用者が自動車の死角に入りやすくなることが原因と考えられます。
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過去の研究では、短縮自転車道と延伸自転車道の安全性に大きな差はないとされていましたが、最近の研究では、短縮自転車道から延伸自転車道に変更すると、自転車と原動機付自転車の事故件数が200~250%増加する可能性があると指摘されています。
安心感への影響
事故が発生しやすい構造とは対照的に、自転車道の延伸は、短縮自転車道や自転車道が整備されていない交差点と比較して、自転車利用者の安心感を向上させる効果があります。これは、自転車利用者が自動車から物理的に分離され、専用のレーンを走行できるためです。
円滑性とその他の影響
自転車道の延伸は、短縮自転車道や自転車道が整備されていない交差点と比較して、自転車利用者の円滑性も向上させる効果があります。自転車利用者は、自動車から分離された専用のレーンを走行できるため、自動車の右折待ちの渋滞に巻き込まれることがなく、スムーズな通行が可能です。
導入における考慮事項
自転車道の延伸は、安全性と安心感を向上させる効果がありますが、導入にあたっては、以下の点に注意する必要があります。
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直進・右折兼用車線の脇に延伸された自転車道は、安全性に課題があるため、避けるべきです。
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自動車専用右折車線の脇に延伸された自転車道は、安全性と安心感を向上させる効果がありますが、短縮自転車道よりもスペースが必要となるため、場所によっては導入が難しい場合があります。
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自転車利用者の速度が速い場合は、短縮自転車道の方が安全な場合があります。
直進レーンと右折レーンの間の自転車レーン
デンマークでは、自転車利用者の安全性を向上させるための様々な道路設計が試みられています。その中で、比較的新しい試みの一つが「直進レーンと右折レーンの間の自転車レーン」です。この設計は、自転車利用者の視認性を向上させ、自動車との衝突リスクを軽減する効果が期待されています。
設計の概要
この設計では、自転車レーンが直進車線と右折車線の間に配置されます。つまり、自転車レーンは右折車線の左側に位置することになります。自転車レーンは自転車シンボルで標示され、青色の自転車専用通行帯としてペイントされることもあります。一方、右折車線は右折矢印と自転車シンボルで標示されます。
自転車レーンは、路肩の線を含めて、直進車線との間に最低1.5メートルの幅が必要です。また、右折車線の幅は3.5メートル以上が推奨されています。さらに、右折する自動車と直進する自転車の交錯地点には、安全な交錯ゾーンを設ける必要があります。
安全性への効果
この設計の主な目的は、右折する自動車と直進する自転車の間で発生する危険な衝突を、交差点の手前でより安全な合流へと転換させることです。同時に、対向車線を左折する自動車から直進する自転車が見えやすくなる効果も期待できます。
多くの国では、この設計が自転車の安全性を向上させるものとして採用され、推奨されています。しかし、デンマークやノルウェーで行われた研究は数が少なく、その結果も断定的ではありません。これらの研究では、この設計が自転車事故を増加させるという明確な証拠は見つかっていませんが、ポジティブな効果があるという確証も得られていません。間接的にこの設計の効果を検証した他の研究では、安全性が向上する可能性が示唆されています。
現時点では、短縮自転車道と比較した場合の安全性への影響は明らかになっていません。
安心感への影響
自転車利用者の安心感への影響については、ポジティブな効果とネガティブな効果の両方が報告されており、一概に判断することはできません。以前の道路状況によって、安心感が向上する場合と低下する場合があると考えられます。
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路肩や延伸自転車道を走行していた場合: 自転車レーンの両側に自動車が通行するため、圧迫感を感じ、安心感が低下する可能性があります。
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車道の中央や短縮自転車道を走行していた場合: 自動車から独立したスペースが確保されるため、安心感が向上する可能性があります。
円滑性とその他の影響
この設計は、自転車利用者の円滑な通行を促進する可能性があります。
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交差点の手前で自動車の列を追い越すことが容易になります。
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歩道上での違法な自転車走行を減らし、車道走行を促す効果が期待できます。これは、自転車と歩行者の両方の通行を円滑にすることに繋がります。
一般的に、自転車利用者は、短縮自転車道よりもこの設計の方が快適だと感じているようです。
導入における考慮事項
この設計は、右折車線が独立している信号交差点でのみ導入可能です。また、合流地点での速度が低いことが重要であるため、制限速度が50km/h以下の交差点に適しています。
オフセット通行のある延伸自転車道
「オフセット通行のある延伸自転車道」は、オランダで開発され、近年注目を集めている自転車道の設計です。「Dutch Design」「Protected Intersection Design」「Viborg-krydset(ヴィボー交差点)」など、様々な名称で呼ばれています。この設計は、自転車利用者の安全性を向上させると同時に、交差点での通行をよりスムーズにすることを目的としています。
実際の交差点 *デンマークでは実装されていないため、オランダの写真です。
設計の概要
この設計の最大の特徴は、自転車道を交差点の停止線まで延伸し、さらに交差点の角を回り込むように設計されている点です。これにより、自転車利用者は、横断歩道の手前で待機している歩行者の横に並んで停止し、その後、歩行者とほぼ同時に交差点を横断することになります。自転車インフラには、視認性を高めるために色付き舗装が用いられることもあります。
この設計の目的は、主に2つあります。
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自転車利用者を交差点内でより目立たせることで、自動車ドライバーからの視認性を向上させ、巻き込み事故のリスクを軽減する。
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自転車利用者が歩行者と同様に横断歩道を渡ることで、交差点での通行をより分かりやすく、スムーズにする。
安全性への効果
この設計はオランダで広く採用されており、イギリス、アメリカ、デンマークでも導入事例があります。しかし、安全性に関する研究はまだ限られており、小規模な研究や方法論的に課題のある研究しか存在しません。これらの研究では、従来の延伸自転車道と比較して、オフセット通行のある延伸自転車道が自転車利用者の安全性を損なうことはないという結果が示されていますが、定量的な効果の大きさを示すまでには至っていません。
自転車利用者の安全性向上に寄与する要素としては、以下が挙げられます。
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自転車利用者の視認性向上
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歩行者と並んで横断することで、より安全な通行が可能になる
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交差点の横断距離が短縮される
安心感への影響
オフセット通行のある延伸自転車道が自転車利用者の安心感に与える影響については、直接的な研究は行われていません。しかし、経験的および理論的には、従来の延伸自転車道と比較して、安心感が向上する可能性が高いと考えられます。その理由としては、以下が挙げられます。
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視認性の向上
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自動車と自転車の分離が強化される
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専用の自転車インフラが整備される
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左折する自転車利用者は、交差点内で待機する必要がなく、安全な場所で信号待ちができる
一方で、直進する自転車利用者にとっては、安心感が低下する可能性も指摘されています。特に、交差点がコンパクトな場合、自転車利用者が直進することを自動車ドライバーに伝えるのが難しく、誤解を招く可能性があります。自転車利用者の最初の動きが右折のように見えるため、ドライバーが混乱する可能性があるためです。
円滑性とその他の影響
円滑性への影響についても、直接的な研究は行われていません。自転車利用者の動き、交通量、交差点の設計によって、ポジティブな効果とネガティブな効果の両方が考えられます。
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右折時に信号待ちをする必要がなくなるため、円滑性が向上する可能性があります。
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一方で、待機中の自転車利用者が右折する自転車や対向車線の自転車の通行を妨げる可能性があります。これは、特に自転車交通量が多いコンパクトな交差点で問題となります。また、左折する自転車利用者は、新しい方向に進むための信号を待たなければならないため、待ち時間が長くなる可能性があります。
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直進する自転車利用者は、わずかながら迂回する必要があります。また、青信号で交差点に進入する場合、S字カーブを走行する際に速度を大幅に落とさなければならない場合があります。赤信号で進入する場合は、交差点の手前で停止できるため、多少のメリットがあります。
オフセット通行のある延伸自転車道は、従来の延伸自転車道よりもスペースが必要となる場合があります。特に、自転車交通量が多い場合、自転車の流れが互いに干渉しないように十分なスペースを確保する必要があります。
導入における考慮事項
この設計は、理論的には自転車道のあるすべての信号交差点に導入できますが、理想的な形状を実現するには、従来の交差点よりも広いスペースが必要です。デンマークでは、ヴィボー、ユールスミンデ、スカンデルボー、ヴィルム、リングビー、オールボーなどの限られた数の交差点でしか導入されていません。これらの交差点の多くは、以前は従来の延伸自転車道が設置されていました。
5. 交差点における対面(両方向)自転車道
両方向自転車道は、スペース効率が良い一方、交差点での設計と運用には特別な配慮が必要です。「交差点における対面自転車道」は、自転車利用者とその他の交通利用者の安全を確保するために、適切な設計と運用が求められる重要な課題です。
私が住むデンマークでは自転車道路の対面通行は危険という前提があるため、設定されている箇所は自動車と交差することが少ない高速道路沿いの自転車道路など、非常に限定されます。
オランダでは対面通行が積極的に採用されていて、アムステルダム市内の各道路で見られます。
踏切の交差点処理
設計の概要
対面自転車道が交差点を横断する場合、理想的には立体交差にすることが望ましいです。しかし、現実的にはコストやスペースの制約から、平面交差となるケースが多いでしょう。平面交差の場合、信号制御または優先道路の指定による交通整理が不可欠です。環状交差点内の両方向自転車道については、このセクションでは扱いません。
信号交差点では、対面向自転車道は専用の信号サイクルで制御されるべきです。これにより、右折車や対向車線の左折車との衝突リスクを回避できます。両方向自転車道は、交差点の手前まで延伸し、交差点での幅は最大3メートルに抑えるべきです。また、自転車道と車道の間には、最低0.5~1メートルの間隔を設ける必要があります。
優先道路が指定されたT字路では、以下の3つの設計が推奨されます。
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副道に停止線を設置: 自転車道が横断する道路に停止線を設置することで、自動車は自転車に道を譲る必要があります。
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自転車利用者に一時停止を義務付ける: 自転車利用者は交差点で一時停止し、安全を確認してから横断する必要があります。
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副道に、自転車道の手前と本道の手前に停止線を設置: 自動車は、自転車道の手前と本道の手前で一時停止する必要があります。
優先関係を明確にするためには、適切な標識や路面標示が必要です。自転車利用者の一時停止を義務付ける場合は、自転車道上に速度抑制のためのハンプを設置することも有効です。また、自転車道が本道から最低6メートル離れている必要があります。
安全性への効果
交差点における対面自転車道は、安全性の確保が課題となります。特に、自動車ドライバーが「逆走」してくる自転車を認識しづらいことが、事故発生の大きな要因となります。
信号制御された交差点では、自転車と自動車の通行を時間的に分離することで、衝突リスクを大幅に低減できます。ただし、赤信号無視などの違反行為は、依然として危険な状況を引き起こす可能性があります。
優先道路が指定されたT字路では、両方向自転車道は安全上の課題となります。特に、「逆走」してくる自転車は事故に遭いやすい傾向があります。優先関係を明確にする標識や路面標示、速度抑制のためのハンプなどは、安全性の向上に貢献します。
安心感への影響
信号制御された交差点では、両方向自転車道は自転車利用者の安心感を高める可能性があります。自転車と自動車の通行が分離されるため、複雑な交差点でも安心して通行できるからです。ただし、この効果については、まだ研究段階です。
優先道路が指定されたT字路では、対面自転車道は「逆走」側の自転車利用者に不安感を与える可能性があります。対向車から見落とされるのではないかという不安が生じるためです。色付きの自転車レーンや標識、路面標示は、安心感の向上に役立つ可能性があります。
円滑性とその他の影響
信号制御された交差点では、両方向自転車道は交差点全体の交通容量を減少させる可能性があります。また、自転車の青信号時間が短いと、自転車利用者の待ち時間が長くなり、円滑性が低下する可能性があります。
優先道路が指定されたT字路では、自転車利用者に一時停止を義務付けることで、自転車利用者の円滑性が低下する可能性があります。
導入における考慮事項
対面自転車道は、多くの側道や交差点がある道路には適していません。ドライバーが「逆走」してくる自転車の存在を常に意識するのは難しいためです。
信号制御された交差点では、両方向自転車道は専用の信号サイクルで制御されるべきです。優先道路が指定されたT字路では、自転車利用者への一時停止義務付けが安全性の観点から推奨されますが、自転車利用者の円滑性を優先する場合は、自動車に一時停止を義務付けることも可能です。ただし、側道交通量が少ない場合に限られます。
6. 交差点における自転車信号
自転車専用信号は、自転車と自動車の通行を分離することで、交差点での事故リスクを低減し、スムーズな通行を促進します。
設計の概要
自転車信号は、自転車道または自転車レーンが整備された信号交差点で、自転車利用者の通行を制御するために設置されます。主な種類は以下の通りです。
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自転車専用信号: 自転車利用者専用の信号機を設置し、自動車とは異なる信号サイクルで制御します。これにより、自転車と自動車の通行を完全に分離し、衝突リスクを最小限に抑えることができます。
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先行青信号: 自転車利用者には、自動車よりも数秒早く青信号を表示します。これにより、自転車利用者は交差点に進入しやすくなり、特に右折車との衝突リスクを軽減できます。
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先行赤信号: 自転車利用者には、自動車よりも数秒早く赤信号を表示します。これにより、自転車利用者の通行を一時的に停止させ、右折車の安全な通行を確保します。
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右折矢印信号: 自転車道が直進と右折に分かれている場合、右折する自転車利用者専用の矢印信号を設置します。これにより、自転車と自動車が同時に右折できるようになり、円滑な通行を促進します。
安全性への効果
自転車専用信号は、自転車と自動車の通行を完全に分離するため、交差点における自転車事故を大幅に削減できます。特に、自転車専用右折信号を設置することで、右折時における自転車事故を約75%削減できるという研究結果があります。
先行青信号は、自転車利用者の視認性を向上させ、右折車との衝突リスクを軽減する効果があります。先行赤信号は、自転車利用者の通行を一時的に停止させることで、右折車の安全な通行を確保します。ただし、自転車利用者が自転車信号を無視するケースもあるため、注意が必要です。先行赤信号は、側道から進入する車両との衝突リスクを軽減する効果も期待できます。
安心感への影響
自転車信号は、自転車利用者の安心感にも影響を与えます。自転車専用信号は、自転車と自動車の通行が分離されるため、自転車利用者は安心して交差点を横断できます。先行青信号は、自転車利用者の視認性を向上させるため、安心感の向上に繋がる可能性があります。先行赤信号と右折矢印信号は、安心感への影響は限定的です。
円滑性とその他の影響
自転車専用信号は、信号サイクルの設定によっては、自転車利用者の待ち時間が長くなり、円滑性が低下する可能性があります。また、交差点全体の交通容量も減少する可能性があります。
先行青信号と先行赤信号は、自転車利用者の待ち時間に影響を与える可能性があります。先行青信号は待ち時間を短縮する可能性がありますが、先行赤信号は待ち時間を増加させる可能性があります。これらの信号は、自転車利用者と自動車ドライバーの心理にも影響を与える可能性があります。先行青信号は自転車利用者を優先しているという印象を与え、先行赤信号は自転車利用者を軽視しているという印象を与える可能性があります。
右折矢印信号は、右折する自転車利用者の円滑性を向上させる効果があります。
導入における考慮事項
自転車信号は、自転車道または自転車レーンが整備された信号交差点で、自転車と自動車の通行量の多い場所に設置することが効果的です。特に、自転車専用信号は、交通安全上の観点から、自転車と自動車の通行を時間的に分離する必要がある交差点に適しています。先行青信号と右折矢印信号は、自転車利用者の円滑性を向上させることを目的とする場合に有効です。
7. 環状交差点における自転車インフラ
環状交差点は、信号機を使わずに交通を処理する交差点形式であり、適切に設計されれば、交通事故の削減や交通流の改善に効果を発揮します。しかし、自転車利用者にとっては、環状交差点は必ずしも安全で快適な場所とは言えません。そこで、デンマークでは、環状交差点における自転車インフラの整備に力を入れています。
設計の概要
デンマークの都市部における環状交差点の多くは、ミニラウンドアバウトまたは1車線環状交差点です。2車線環状交差点は少なく、自転車利用者の安全を確保するために、立体交差または環状交差点の外側に自転車道を設置し、自転車利用者に環状交差点への流入・流出道路で一時停止を義務付ける設計が推奨されています。
ミニラウンドアバウトと1車線環状交差点における自転車インフラの代表的な設計は以下の通りです。
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環状交差点内自転車道 (A): 環状交差点の環道に沿って自転車道が設置されます。
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環状交差点内自転車レーン (A): 環状交差点の環道に自転車レーンが標示されます。
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色付き自転車道・自転車レーン (B): 自転車道または自転車レーンが青色にペイントされます。視認性の向上と自転車利用者への配慮を示す効果があります。
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環状交差点外自転車道 (C): 環状交差点の手前10~15メートルで自転車道が環状交差点から分岐し、自転車利用者は環状交差点への流入・流出道路で一時停止する必要があります。
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環状交差点内自転車インフラなし (D): 自転車道・自転車レーンは環状交差点の手前で途切れ、自転車利用者は環道内で自動車と同様に走行する必要があります。
Aタイプの実例
Bタイプの実例
安全性への効果
環状交差点は、一般的に交通事故の削減に効果的です。しかし、自転車と環状交差点の組み合わせは、安全性の確保が課題となります。
環状交差点外自転車道(C)と環状交差点内自転車インフラなし(D)は、自転車利用者にとって最も安全な設計です。これらの設計では、自転車と自動車の動線が分離されているか、自転車利用者が一時停止することで、衝突リスクを低減できます。環状交差点外自転車道では、自転車事故のリスクが約1/3に、環状交差点内自転車インフラなしでは約1/2に減少するという研究結果があります。
環状交差点内自転車レーン(A)は、最も安全性が低い設計です。自転車レーンは自動車との境界が明確でないため、自転車利用者は自動車に巻き込まれるリスクが高くなります。環状交差点内自転車道(A)は、環状交差点内自転車レーンよりは安全ですが、それでも環状交差点外自転車道や環状交差点内自転車インフラなしと比べると、事故リスクが高いです。
色付きの自転車道・自転車レーン(B)は、視認性の向上に貢献しますが、必ずしも安全性の向上に繋がるわけではありません。特に、青色の自転車レーンは、事故リスクが約10~40%増加するという研究結果もあります。
安心感への影響
自転車利用者の安心感は、自転車と自動車の分離度合いによって大きく左右されます。環状交差点外自転車道(C)と環状交差点内自転車道(A)は、自転車利用者に専用の通行空間を提供するため、安心感が高まります。環状交差点内自転車レーン(A)は、自動車との境界が曖昧なため、安心感が低くなります。環状交差点内自転車インフラなし(D)は、自転車利用者が自動車との混在交通を強いられるため、最も安心感が低くなります。
色付きの自転車道・自転車レーン(B)は、自転車利用者への配慮を示すことで、安心感を向上させる効果が期待できます。
円滑性とその他の影響
環状交差点外自転車道(C)は、自転車利用者に迂回と一時停止を強いるため、円滑性が低下します。環状交差点内自転車道(A)と環状交差点内自転車レーン(A)は、自転車利用者が環道内で自動車に優先されるため、円滑性が低下する可能性があります。環状交差点内自転車インフラなし(D)は、自転車利用者が自動車と同様に環状交差点を走行できるため、最も円滑性が高いです。ただし、交通量が多い場合は、環状交差点への進入が難しくなり、円滑性が低下する可能性があります。
色付きの自転車道・自転車レーン(B)は、円滑性への影響は限定的です。
導入における考慮事項
環状交差点の設計は、安全性、安心感、円滑性のバランスを考慮する必要があります。交通量、自転車利用者の数、周辺環境などを総合的に評価し、最適な設計を選択することが重要です。都市部では、スペースの制約から、環状交差点外自転車道(C)の設置が難しい場合もあります。
8. バス停における自転車インフラ:自転車とバスの共存を目指した安全対策
自転車とバスは、どちらも都市交通において重要な役割を担っています。しかし、バス停周辺は、自転車利用者とバス乗客の動線が交錯し、事故のリスクが高まる場所でもあります。デンマークでは、バス停における自転車インフラの整備を通して、安全性の向上に積極的に取り組んでいます。
設計の概要
自転車道がある道路では、バス停は以下のように設計されるのが一般的です。
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自転車道と車道の間に広いバスベイを設置: 待機中の乗客はバスベイ内で安全に待機でき、バスから降りる乗客も安全に歩道に移動できます。
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自転車道と車道の間に狭いバスベイを設置: 歩道上の待合スペースに加えて、小さな待機・降車スペースを設けます。
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歩道上にバス停を設置: 待機中の乗客は歩道上で待機し、バスから降りる乗客は直接自転車道に降りる形になります。
自転車レーンがある道路では、バス停は以下のいずれかの方法で設計されます。
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自転車レーンを強化: 自転車レーンを自転車道にアップグレードし、上記の自転車道用のバス停設計を適用します。
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歩道上にバス停を設置: バスは自転車レーンに乗り入れて停車し、自転車利用者はバスの後ろで待機する必要があります。
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バス停をバス専用レーンに設置: 自転車レーンはバス停を迂回するように設置されます。
歩道上にバス停がある事例
自転車道と車道の間に狭いバスベイ
自転車道と車道の間に広いバスベイ *デンマークでは原付は自転車道を走行します。
自転車インフラが整備されていない道路では、バス停は通常歩道沿いに設置され、自転車利用者は停車中のバスの後ろで待機する必要があります。
BRT(バス高速輸送システム)路線では、バス停が道路の中央に設置されることもありますが、これは一般的ではありません。
バスベイを設置する際は、乗客が自転車利用者と接触することなく、安全に乗り降りや周囲の確認ができるよう、十分な幅を確保することが重要です。
安全性への効果
自転車道や自転車レーンがある道路では、バス停周辺は自転車利用者とバス乗客の接触事故のリスクが高まります。特に、両方向自転車道では事故リスクがさらに高くなります。
バスベイの設置は、自転車利用者とバス乗客の事故リスクを低減する効果があります。
多くの自転車利用者とバス乗客は、バス停周辺での優先通行権に関するルールを理解していません。(バスベイがある場合は乗客が優先、バスベイがない場合は自転車利用者が優先)。この知識不足は、安全上の大きな問題となっています。
海外の研究によると、BRT路線でよく見られる道路中央分離帯に設置されたバス停が最も安全であることが示されています。また、バス専用レーンにバス停を設置する方が、歩道沿いに設置するよりも安全です。
安心感への影響
自転車利用者とバス乗客の双方が、バス停周辺では不安を感じているという調査結果があります。例えば、オールボー市で行われた調査では、回答者の約80%の自転車利用者と約40%のバス乗客が、バス停周辺で不安を感じると回答しています。
バス停周辺の自転車道に色付き舗装を施すなど、キャンペーンや対策を実施することで、自転車利用者とバス乗客の安心感を向上させる効果が期待できます。
円滑性とその他の影響
自転車道や自転車レーンがある道路では、バス停は自転車利用者の円滑な通行を阻害する可能性があります。自転車利用者は、バス乗客を避けたり、乗客が優先道路を横断するのを待ったり、バスの後ろで待機したりする必要があるためです。
自転車道がある道路では、バスベイを設置することで、自転車利用者の円滑性への悪影響を軽減できます。自転車レーンがある道路では、バス停をバス専用レーンに設置することで、停車中のバスを追い越すことが可能になり、円滑性が向上します。
導入における考慮事項
両方向自転車道とバス停の組み合わせは、自転車道とバス停の間に広い分離帯を設けることができない限り、避けるべきです。
自転車道がある道路では、バスベイの設置が推奨されます。ただし、スペースが限られている場合は、バスベイを設けずに、乗客が自転車道に直接乗り降りする設計にすることも可能です。
自転車レーンがある道路では、「強化された自転車レーン」またはバス専用レーンへのバス停設置が推奨されます。
自転車道および自転車レーンの脇の路上駐車
自転車道や自転車レーンは、自転車利用者の安全な通行空間を提供する重要なインフラです。しかし、その脇に路上駐車が設けられている場合、自転車利用者の安全と快適性が損なわれる可能性があります。デンマークでは、この問題に対処するため、様々な対策が検討されています。
設計の概要
自転車道に沿った駐車スペースは、自転車道と車道の間に設けられ、以下のいずれかの方法で設計されます。
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縦列駐車(平行): 車両が自転車道と平行に駐車します。駐車スペースは標示されている場合とされていない場合があります。
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縦列駐車(平行、駐車区画内): 路肩で区切られた駐車区画内に車両が縦列駐車します。
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斜め駐車または垂直駐車: 車両が自転車道に対して斜めまたは垂直に駐車します。
自転車レーンに沿った駐車スペースは、自転車レーンと車道の間、または自転車レーンと歩道の間に設けられます。デンマークでは、自転車レーンと歩道の間に駐車スペースを設けることは稀です。斜め駐車または垂直駐車は推奨されておらず、通常は以下のいずれかの方法で設計されます。
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縦列駐車(平行、標示された駐車区画内): 標示された駐車区画内に車両が縦列駐車します。
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縦列駐車(平行、駐車帯内): 駐車帯内に車両が縦列駐車します。
縦列駐車時にドアの開閉によって発生する自転車事故のリスクを最小限に抑えるためには、駐車スペースと自転車道または自転車レーンの間に安全地帯(例えば、路肩を広く取る、植栽帯を設けるなど)を設けることが有効です。安全地帯は、歩行者にとっても安全な待機場所となります。安全地帯の幅は最低0.8メートル、歩行者が通行する場合は1.5~2.0メートル必要です。
縦列駐車(平行、駐車区画内)の例
垂直駐車の例 EVの充電ステーションも併設。
斜め駐車の例。左右に駐車スペースがあり、その通路が自転車道と共用になっています。
安全性への効果
自転車道や自転車レーンの脇に路上駐車がある場合、ドアの開閉や歩行者の横断などにより、自転車事故のリスクが高まります。特に、縦列駐車は、自転車利用者と車両乗降者の接触事故(いわゆる「ドアイング」)の危険性が高いです。
斜め駐車や垂直駐車は、自転車道上の自転車利用者への直接的な影響は少ないものの、後退する車両による事故リスクを高めるため、一般的に危険な駐車方法とされています。
自転車道または自転車レーンと駐車スペースの間に安全地帯を設けることは、自転車利用者の安全性を向上させる効果的な対策です。安全地帯は、ドアイング事故のリスクを低減するだけでなく、自転車利用者と歩行者の衝突リスクも軽減します。
縦列駐車 に安全地帯が追加されている例
路上駐車を禁止することは、これらの安全上の問題を根本的に解決する最も効果的な方法です。しかし、駐車スペースを側道に移動すると、側道の交通量が増加し、交差点での事故リスクが高まる可能性があります。
安心感への影響
自転車道や自転車レーンの脇に路上駐車がある場合、特にドアイングの危険性があるため、自転車利用者の安心感は低下します。オーストリアで行われたある調査では、回答者の80%以上が、自転車道の脇の路上駐車に不安を感じると回答しています。斜め駐車や垂直駐車は、ドアイングの危険性は低いものの、依然として自転車利用者に不安感を与える可能性があります。
安全地帯の設置や自転車道・自転車レーンの拡幅は、自転車利用者の安心感を向上させる効果があります。また、色付きの自転車レーンは、ドライバーの注意を引きつけ、自転車レーンの存在を認識させることで、安心感の向上に繋がる可能性があります。
円滑性とその他の影響
路上駐車は、自転車利用者の速度低下を招く可能性があります。これは、物理的に通行スペースが狭くなるだけでなく、ドアイングや歩行者の横断を警戒するためでもあります。
安全地帯の設置や自転車道・自転車レーンの拡幅は、自転車利用者の円滑な通行を促進します。色付きの自転車レーンは、ドライバーに自転車レーンの存在を明確に示すことで、自転車利用者の円滑な通行に貢献する可能性があります。
自転車レーンに違法に駐車している車両は、自転車利用者の通行を妨げ、円滑性を低下させます。自転車利用者は、そのような車両を避けるために減速または停止せざるを得なくなります。
導入における考慮事項
自転車道や自転車レーンの脇に路上駐車を設けることは、自転車利用者の安全、安心感、円滑性の観点から、一般的に推奨されません。縦列駐車を設ける場合は、駐車スペースと自転車道または自転車レーンの間に安全地帯を設けることが不可欠です。安全地帯の設置には、ある程度の道路幅員が必要となります。
斜め駐車や垂直駐車は、交通量の多い道路や地域では適していません。なぜなら、これらの駐車方法は、車道上の安全性を低下させる可能性があるからです。
共用通路と歩行者・自転車共用路
都市部における限られた空間を有効活用するため、自転車と歩行者が共用する通路が設けられることがあります。デンマークでは、「共用通路」と「歩行者・自転車共用路」の2種類の共用通路が定義されています。それぞれの特徴を理解し、適切な設計と運用を行うことで、自転車利用者と歩行者の安全で快適な共存を実現することが重要です。
設計の概要
自動車が侵入できない自転車道と歩道の事例。どちらも分離型。
共用通路と歩行者・自転車共用路はどちらも自転車と歩行者の通行が認められている通路ですが、以下の点が異なります。
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共用通路: 自転車と歩行者の通行帯が標示、舗装、その他の方法で区別されています。自転車と歩行者の通行空間を物理的に分離することで、両者の衝突リスクを軽減することを目的としています。
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歩行者・自転車共用路: 自転車と歩行者の通行帯が区別されていません。自転車と歩行者は同じ通行空間を共有するため、互いに配慮しながら通行する必要があります。
共用通路と歩行者・自転車共用路は、道路に沿って設置される場合と、独立したルートとして設置される場合があります。また、自転車の一方通行または両方向通行が許可されている場合があります。
安全性への効果
共用通路と歩行者・自転車共用路の安全性への影響は、様々な要因によって変化し、一概に断定することはできません。
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自動車との接触事故の減少: 共用通路と歩行者・自転車共用路は、自転車利用者を自動車交通から分離するため、自動車との接触事故を減少させる効果があります。
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交差点事故の増加: 一方で、共用通路が交差点を横断する場合、特に両方向通行が許可されている場合は、自動車ドライバーが予期せぬ方向から来る自転車を見落としやすく、交差点事故が増加する可能性があります。
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自転車と歩行者の衝突リスク: 共用通路内では、自転車と歩行者の衝突リスクが存在します。特に、歩行者・自転車共用路では、通行帯が区別されていないため、衝突リスクが高くなります。
安心感への影響
共用通路と歩行者・自転車共用路は、自転車レーンや車道と比較して、自転車利用者の安心感を高める効果があります。これは、自動車交通から物理的に分離されているためです。ただし、歩行者との衝突リスクがあるため、絶対的な安心感を得られるわけではありません。
共用通路は、自転車と歩行者の通行帯が区別されているため、歩行者・自転車共用路よりも安心感が高いと考えられます。しかし、通路の幅員が狭く、自転車と歩行者の通行空間が十分に確保されていない場合は、かえって不安感を高める可能性があります。
円滑性とその他の影響
共用通路は、自転車利用者に専用の通行空間を提供するため、自転車レーンや車道と比較して円滑性が高い傾向があります。ただし、歩行者との遭遇頻度が高いため、減速や一時停止を余儀なくされる場合もあります。特に、歩行者・自転車共用路では、歩行者との衝突を避けるため、自転車利用者は頻繁に減速する必要があります。
共用通路と歩行者・自転車共用路は、独立したルートとして設置される場合、より直線的なルート設定が可能となり、目的地までの距離が短縮される場合があります。ただし、迂回が必要となる場合もあります。
導入における考慮事項
共用通路と歩行者・自転車共用路は、自転車と歩行者の通行量が少ない場合に適しています。通行量が多い場合は、自転車道と歩道を分離して設置する方が安全で快適です。
両方向通行の共用通路は、見通しの悪い場所や交差点では危険な場合があります。一方通行にするか、自転車利用者に一時停止を義務付けるなどの対策が必要です。
2マイナス1車線道路:交通静穏化と自転車通行の調和
2マイナス1車線道路は、一見すると1車線道路に見えますが、実際には両方向通行が可能な道路です。この一見矛盾した設計は、速度抑制と安全性の向上を目的とした手法の一つとして、デンマークの多くの田園地帯の自治体で導入されています。自転車利用者にとって、この道路形式はどのような影響を与えるのでしょうか。
設計の概要
2マイナス1車線道路は、中央に1車線の走行スペースと、その両側に破線で区切られた広い路肩スペースを備えています。2台の車がすれ違う際は、どちらか一方、あるいは両方が路肩スペースに避けて通行します。この路肩スペースは、自転車と歩行者の通行にも利用されます。
路肩スペースが広すぎると、自動車が走行車線と誤認する可能性があるため、適切な幅員の設定が重要です。
2マイナス1車線道路の目的は、以下の2点です。
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自転車と歩行者の通行環境を改善する。既存の道路幅員の中で、自転車と歩行者の通行スペースを確保することができます。
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速度抑制と安全性の向上。走行スペースが狭いため、自動車ドライバーは自然と速度を落とす傾向があります。また、車線と路肩の境界が明確になることで、道路全体の見通しが良くなり、事故リスクが低減します。
安全性への効果
2マイナス1車線道路の効果を検証した研究は限られていますが、デンマークとオランダの評価研究によると、この道路形式は事故件数を約25%削減する効果があるとされています。自転車事故への影響については十分に研究されていませんが、全体的な事故減少効果と同様に、自転車事故も減少する可能性が示唆されています。
速度抑制効果は、デンマーク、スウェーデン、オランダ、ドイツの速度測定調査で確認されています。多くの場合、平均速度は2~5km/h低下します。特に、速度抑制のためのハンプや、速度制限の標識と組み合わせることで、より大きな速度抑制効果が得られます。速度の低下は、道路利用者全体の安全性向上に寄与するだけでなく、自転車利用者の安全性向上にも大きく貢献します。
一方で、2マイナス1車線道路では、すれ違い時の車間距離が従来の道路よりも短くなるという研究結果もあります。これは、自転車利用者の安全性に悪影響を与える可能性があります。また、自転車と歩行者の通行量が増加すると、路肩スペースでの接触事故のリスクが高まる可能性があります。さらに、自動車ドライバーや自転車利用者が2マイナス1車線道路のルールを正しく理解していない場合、危険な状況が発生する可能性があります。
安心感への影響
自転車利用者の安心感への影響については、相反する研究結果が出ています。
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路肩スペースが設けられることで、自転車利用者は自動車から分離された空間を走行できるため、安心感が向上するという研究結果があります。また、速度抑制効果も安心感の向上に寄与すると考えられます。
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一方で、路肩スペースですれ違う際に自動車に圧迫感を感じたり、路肩スペースを歩行者と共有することに不安を感じたりする自転車利用者もいるという研究結果もあります。
これらの結果の違いは、交通量の違いによるものと考えられます。交通量が少ない場合は安心感が向上する傾向があり、交通量が多い場合は安心感が低下する傾向があると考えられます。
円滑性とその他の影響
自転車利用者の円滑性への影響については、明確な研究結果が出ていませんが、影響は小さいと考えられます。
路肩スペースは、従来の狭い道路と比較して、自転車利用者にゆとりある通行空間を提供します。しかし、歩行者との遭遇や、自動車のすれ違いのための路肩スペースへの移動により、円滑性が低下する可能性もあります。自転車専用道路と比べると、円滑性は低いと考えられます。
導入における考慮事項
2マイナス1車線道路は、交通量が少ない、速度が低い、見通しの良い狭い道路に適しています。具体的には、以下の条件を満たす道路が推奨されます。
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ピーク時の交通量が300台/時以下、1日あたりの交通量が3,000台以下。
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制限速度が市街地で50km/h以下、郊外で60km/h以下。
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対向車とのすれ違いに必要な見通しが確保されている。
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路肩への駐車需要が少ない。
2マイナス1車線道路は、速度抑制のためのハンプなどの対策と組み合わせて導入することが推奨されます。
一方通行道路の自転車の逆走許可
一方通行道路は、自動車交通の流れをスムーズにする効果がありますが、自転車利用者にとっては遠回りや不便を強いられる場合があります。そこで、デンマークでは、一方通行道路の一部で自転車の逆走を許可する取り組みが行われています。これは、自転車利用者の利便性を向上させるだけでなく、安全性向上にも寄与する可能性を秘めた施策です。
設計の概要
一方通行道路で自転車の逆走を許可する場合、道路の入口に「一方通行」の標識(E 19)と補助標識「自転車を除く」(U 5)を設置します。出口には「自動車、大型原動機付自転車、トラクター、および作業車両通行止め」(C 22.1)の標識を設置します。
標識に加えて、逆走する自転車のために自転車道や自転車レーンを整備することもあります。これらの自転車インフラは、通常の自転車道や自転車レーンと同じ幅員で整備する必要があります。
安全性への効果
複数の国の研究結果によると、一方通行道路で自転車の逆走を許可しても、安全性上の問題は発生しないことが示されています。むしろ、多くの研究で、交通安全性が向上する傾向が見られています。また、一方通行道路では、順走するよりも逆走する方が安全であるという研究結果も出ています。
この安全性の向上には、いくつかの要因が考えられます。
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対面通行: 対向車が来るため、ドライバーも自転車利用者もより注意深くなる。
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歩道走行の減少: 目的地への近道となるため、歩道を走行する自転車が減る。
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自転車交通量の増加と自動車交通量の減少: 自転車の利便性向上により、自転車利用者が増加し、相対的に自動車交通量が減少する。
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自動車の速度低下: 対向自転車の存在により、自動車ドライバーは速度を落とす傾向がある。
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注意力の向上: ドライバーも自転車利用者も周囲の状況に注意を払うようになる。
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自転車の走行距離の短縮: 目的地まで最短ルートで走行できるようになるため、事故に遭う確率が減少する。
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生活道路への移動: 交通量の多い幹線道路から、交通量の少ない生活道路へ自転車交通が移動する。
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駐車車両との接触事故の減少: 駐車車両を避けるための急な車線変更などが減る。
ただし、交差点、路上駐車、横断歩道は依然として危険な場所であるため、設計には注意が必要です。
研究結果に基づいて、効果の大きさを定量化することは困難です。
安心感への影響
自転車の逆走許可は、自転車利用者の安心感を高める効果があります。自転車利用者は、自動車から認識されやすく、優先されていると感じやすいためです。多くの国の自転車団体がこの施策を支持している理由の一つです。一方、自動車ドライバー、業務ドライバー、歩行者は、この施策に対してあまり肯定的ではありません。
円滑性とその他の影響
自転車の逆走許可は、自転車利用者の円滑性を向上させることを主な目的としており、この目的は達成されていると考えられます。これは、主に以下の2つの要因によるものです。
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走行距離の短縮: 目的地まで最短ルートで走行できるようになる。
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歩道走行の減少: 歩道走行は車道走行よりも速度が遅いため、車道走行が可能になることで、目的地までの所要時間が短縮される。
導入における考慮事項
自転車の逆走許可は、自転車利用者の利便性と安全性を向上させる効果的な施策ですが、すべての状況に適しているわけではありません。導入にあたっては、交差点、路上駐車、横断歩道の安全対策を十分に検討する必要があります。
以上、デンマークの自転車向け道路設計(Vejtekniske løsninger for cyklister)についての翻訳となります。